合同会社ジンバル/Gimbal LLC

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「挑戦」は、父の贈り物

2015.10.30
「学びの泉」は私が担当するコラムです。
学びとは、「?>!」で表現される。「何故?」が先にあって、そこから学びが始まり、「なるほど、そうなんだ!」という一連の活動が学びだと思う。
 事前の疑問を意識していなくても、「!」(なるほど、そうなんだ!)はある。しかし、「?>!」に勝るものはない。普段から、いくつもの「?」をもっていれば、学びも大きいと思う。私自身は、このコラムを書くことで、多くを学ぶ。

父が亡くなってからもう25年がたった。私が42歳の時、父は67歳で亡くなった。当時、外資系のコンサルティング会社でコンサルタントをしていた私は、クライアント様と向き合っているときに、ふと時間が止まり、田舎で父と遊んだ思い出や光景が頭をよぎった。一瞬だと思う。また、元の会話に戻り、何事もなかったかのように仕事をしていた。

そのような父の思い出と向き合うことを繰り返していた時間は、私にとって如何に父の存在が大きかったかということ知らしめてくれた。1ヶ月経ち、少しずつ父が現れる間隔がながくなって、ついには寝る前や朝の目覚めの時に父に会うだけになった。3ヶ月もすると、それも時々になってきた。1年後にはふと思い出す程度になった。そして、今でも時々思い出して、懐かしくて寂しくなる。

父の贈り物で最も大きいものは、「賢二、生涯、勉強だぞ」という言葉である。父自身がそのように生きたことは私が良く知っている。たいした能力もない凡人の私が何とかやれるのは、ただひとつ、父の教えを思い出しながら挑戦しているからだと思う。

リチャード・ニクソン

人は誰でも、忘れられない本がある。父の思い出に関連して言えば、私が大事にしている本の一つが、25年ほど前に読んだ第37代アメリカ大統領のリチャード・ニクソンの回顧録「わが生涯の戦い」(文芸春秋 1991年)である。

「第2部、第4章 家族」に次のような文章がある。

(1956年の共和党大会で副大統領の指名候補に選ばれた直後)私が父に、「朝、また来ますよ」と言うと、父は、「朝は、もうここにはいないだろう」と答えた。「父さん、がんばらなくちゃ」と私は言った。父の私への最後の言葉は、「ディック、おまえこそがんばれよ」というものだった。あくる日父は七十五歳で亡くなった。

リチャード・ニクソンが如何に父を誇りに思っていたか、如何に父を尊敬していたか、その短い文章の中に素晴らしい想いを感じることができる。そして、副大統領から大統領選に出馬して落選したのちに、再び大統領選に挑戦して大統領になったのは、リチャード・ニクソンただ一人である。

ロバート・キャパ

私は縁あって、2014年4月から2015年3月まで、甲南大学大学院/社会科学研究科経営学専攻博士後期課程に在籍し、研究の機会を頂き、博士学位論文をまとめることができた。更に、甲南大学経営学会のご支援のもとで、その学位論文をもとにして、「業務プロセス改革」(中央経済社 2015年)を出版することができた。

私は、13年間、製造業において品質管理や製造・生産管理の実務に携わった。その後、30年にわたって、経営コンサルタントとして、外部から製造業の経営の世界に携わってきた。その経験や知見は、学界における諸先生方の経験や知見とは異なる視点があると思う。その異なる視点からの取り組みを学問の視点から深く研究し論文にまとめることに挑戦する事が出来たのは、望外の幸せであった。

現役のコンサルタントとして、多くの時間をクライアント先で過ごしながら、研究を進める事の時間的制約は実際のところ厳しい取り組みであった。しかし、終わってしまえば、時間的制約は、実は大きな制約ではないのではないか思えてくる。少ない時間の制約があるから集中して深く考えることができたし、もし、時間が十分にあったとすれば、その取り組みも緩慢なものになり、成就しなかったと思う。

だから、「できない理由」を作るのではなく、「一生勉強、一生挑戦」の気概を持って、そう、ロバート・キャパの言葉のように、「あと半歩踏み込む」ことが大事ではないか。甲南大学における研究活動を始めるにあたって、背中を押して頂いた諸先生方によって、私は「あと半歩踏み込む」ことができた。

「崩れ落ちる兵士」(ロバート・キャパ)
「崩れ落ちる兵士」(ロバート・キャパ)1936年/スペイン内戦
「(友人に)君が良い写真が撮れないのは、あと半歩の踏み込みが足りないからだ。」3/10/2013 NHKスペシャル(ロバート・キャパ)より

合同会社ジンバル

私のコンサルティングの専門領域である製造業の革新で言えば、製造業で劇的な革新が突然起きるなどということは期待しないほうが良い。しっかりとした現状認識と正しい方向付け、そしてこつこつと積み重ねる改善から革新が生まれる。継続的改善へのたゆまぬ取り組みがあって初めて、革新の芽を見つけることができると思う。

人生が生涯勉強だというなら、企業も常に学び、一歩でも前に進もうとする努力を、経営者が一体となって推進することが重要ではないか。

個人なら自分自身で方向を決めることが出来るが、組織の向かうべき方向とか目標は経営者が具体的に提示しなければわからない。だから曖昧な言葉ではなく、あと半歩踏み込んで、具体的な目標と納得できる施策の開示が必要である。

わかるだろう!というのは「ディック、おまえこそがんばれよ」にこめられた思い出の積み重ねがあるからである。社員に「生涯、勉強」と言って動くほど、ことは簡単ではない。まして、グローバルな人材の配置の中で行われる企業競争では尚更である。

2001年に仲間と創業した株式会社アットストリームを2015年の6月末に卒業し、新しく7月1日から合同会社ジンバルを創業した。

このコラムは、「一生勉強、一生挑戦」の始まりであり、このコラムをお読みいただく皆様と一緒に、いつまでも学び、挑戦する心を共有したい。